













【第5回】「いつも通り」の値段で、いつまで走れるか?
運賃交渉力の弱さと取引慣行
「うちの運賃、10年前からほとんど変わってないんですよ」
ある運送会社の社長が、苦笑いしながらそう言った。物価は上がり、人件費も上がった。それなのに、運賃は据え置き。この構図が、業界全体を蝕んでいる。
「お願い」できない運送会社
物流事業者の多くは中小企業だ。荷主に対する交渉力は弱く、「値上げをお願いしたい」と言い出すのは、経営者にとって大きなハードルになる。
「他社さんはもっと安くやってくれますよ」と言われれば、引き下がるしかない。長年の取引関係があれば、なおさら強く出られない。
結果として、コスト上昇を運賃に転嫁しきれず、利益は圧縮される。荷待ち・荷役の無償対応、急な案件への対応、細かい要望への応対──。これらの「サービス」が、実質的な「タダ働き」として収益を蝕んでいる。
3つの声──現場、経営、第三者
この問題を、複数の視点から掘り下げた。
まずは、群馬県で食品配送を営むE物流の社長、渡辺さん(仮名・48歳)。
「荷主さんとは20年以上の付き合いです。だから、値上げ交渉がしにくい。『今までありがとう』で切られたら、うちは立ち行かなくなる。でも、このままでも立ち行かなくなる。どっちを選んでも苦しい」
渡辺さんは、何度か値上げを切り出したことがある。しかし、「検討します」と言われたきり、返答はなかったという。
次に、同社のドライバー、岡田さん(仮名・42歳)。
「荷待ち時間が長いんですよ。1時間待ちはざら。その間、エンジンかけっぱなしで待ってる。燃料も時間も無駄。でも、荷主さんに文句は言えない。言ったら、次から仕事が来なくなるかもしれない」
岡田さんは、荷待ち時間中にスマホで家族に連絡を取る。「せめてもの息抜き」だと笑うが、その時間は会社にとってはコストだ。
第三者として、物流ジャーナリストの藤田氏に話を聞いた。
「運賃交渉は、感情ではなくデータで行うべきです。『このルートで、この荷物を運ぶのに、これだけのコストがかかっている』と示せれば、荷主も無視できない。しかし、多くの中小運送会社は、そのデータを持っていない」
私が感じたこと
取材を通じて痛感したのは、「交渉材料のなさ」だ。
経営者は「値上げしたい」と思っている。しかし、その根拠となるデータがない。感覚で「苦しい」と言っても、荷主を動かすことはできない。
逆に言えば、データがあれば交渉は変わる。荷待ち時間が月に何時間あるか。燃料費が何%上がったか。それによって、1便あたりのコストがいくら増えたか。
この「見える化」ができている会社は、交渉で成果を上げている。できていない会社は、「お願い」しかできない。
明日からできること、仕組みで変えること
運賃交渉力を高めるには、データと準備が必要だ。
▼すぐできる打ち手
- 荷待ち時間の記録を始める:いつ、どこで、何分待ったかを記録する習慣をつける
- コスト構造を整理する:燃料費、人件費、車両費などの内訳を月次で把握する
- 荷主ごとの収益性を計算する:どの取引が利益を出し、どの取引が赤字かを明確にする
▼仕組み化の打ち手
- デジタルタコグラフで運行実績を自動記録:荷待ち時間、運行時間、距離をデータ化する
- 実績データを交渉資料に加工する:グラフや表で「見せる化」し、荷主に提示できる形にする
- 定期的な運賃見直しのルール化:年1回など、交渉のタイミングを決めておく
▼失敗しやすい落とし穴と回避策
- 「関係が壊れる」と恐れて何もしない:データを示した上での交渉は、むしろ信頼を高める
- 一律値上げを求める:荷主ごとに状況が違うので、個別対応が必要
- 交渉の準備を怠る:データなしで臨むと、感情論になりやすい
まとめ
運賃交渉は、経営の根幹に関わる問題だ。
「今まで通り」の値段で走り続ければ、いつか会社は立ち行かなくなる。しかし、交渉するには根拠が必要だ。
その根拠となるデータを、どうやって集め、どう活かすか。ここに知恵を絞る時代が来ている。
運行データの見える化、荷待ち時間の記録、コスト分析など、お困りのことがあれば、中央矢崎サービス㈱にご相談ください。