経営と現場の交差点

【第1回】ハンドルを握る人が・・・いない!


ドライバー不足と高齢化が突きつける「待ったなし」の現実


先日、関東近郊の中堅運送会社を訪ねたときのことだ。応接室に通される前、車庫に並んだ大型トラックを見た。ピカピカの車体。しかし、そのうち3台にはフロントガラスに「配車待ち」の札がかかっていた。

「稼働できる車両はあるんです。でも、乗る人がいない」

出迎えてくれた社長の言葉が、今も耳に残っている。


見えにくい危機、見て見ぬふりの代償


物流業界におけるドライバー不足は、もはや「課題」という言葉では足りない。

トラック運転者の有効求人倍率は全業種平均の約2倍以上で推移している。採用難が常態化し、50代以上のドライバー比率が高まる一方、若手の参入は伸び悩む。

問題は、この構造が「じわじわと」進行してきたことだ。急激な変化ではないからこそ、現場は日々の運行を回すことに追われ、経営層は「まだ何とかなっている」と感じてしまう。

しかし、その「何とか」は、ベテランドライバーの踏ん張りと、管理者の休日返上で成り立っているケースが少なくない。


3つの声──現場、経営、第三者


今回、この問題に向き合う3人に話を聞いた。

まずは、埼玉県で食品配送を手がけるA運送の社長、田村さん(仮名・58歳)。

「正直、私も現役ドライバーをやっています。本来は経営に専念したい。でも、人が足りないから自分がハンドルを握らないと回らない。5年前は『いずれ若手が入る』と思っていたけど、その『いずれ』が来なかった」

田村さんの会社では、ドライバーの平均年齢が57歳を超えた。定年延長でしのいでいるが、健康問題や免許返納のリスクは年々高まっている。

次に話を聞いたのは、同社で20年以上ドライバーを務める山本さん(仮名・62歳)。

「若い子が来ても、すぐ辞めちゃうんですよ。『拘束時間が長い』『休みが読めない』って。気持ちはわかる。俺らの時代とは違う。でも、このままじゃ俺らが倒れたとき、誰が荷物を届けるんだって思いますよ」

山本さんは週に1度、腰痛で整骨院に通っている。それでも「代わりがいないから」と乗り続けている。

第三者の視点として、物流コンサルタントの石井氏にも話を聞いた。

「多くの経営者は『人手不足は仕方ない』と諦めているように見えます。しかし、採用できている会社もある。違いは、働き方の『見える化』と『言語化』ができているかどうか。曖昧なままでは、求職者に選ばれません」


私が感じたこと


3人の話を聞いて、私が強く感じたのは「問題の先送り」の代償だ。

経営判断として「今は何とかなっている」という認識は、ある意味で正しい。しかし、その「何とか」を支えている人たちの疲弊は、数字に現れにくい。

そして、人材市場は待ってくれない。若い世代は情報を比較し、条件の良い業界・会社を選ぶ。物流業界が「きつい・汚い・危険」のイメージを払拭できなければ、採用競争に勝つことは難しい。

現場と経営のズレは、ここにある。

現場は「人が足りない」と訴え、経営は「予算がない」「応募が来ない」と返す。しかし、本当に必要なのは、互いの認識を合わせ、「何を変えれば人が来るのか」を具体的に詰めることだ。


明日からできること、仕組みで変えること


ドライバー不足への対応は、一朝一夕にはいかない。しかし、手をこまねいていても状況は悪化するだけだ。以下に、私が見聞きした中で「効果があった」と感じた打ち手を整理する。

すぐできる打ち手

  • 採用情報の「見える化」:給与だけでなく、拘束時間、休日数、1日の流れを具体的に開示する
  • 既存ドライバーへの定期面談:不満や要望を吸い上げ、小さな改善を積み重ねる
  • ベテランの知見を「言語化」:暗黙知をマニュアル化し、新人教育の負荷を下げる

仕組み化の打ち手

  • デジタルタコグラフのデータ活用:運行実績を可視化し、労働時間管理と安全運転指導に活かす
  • 点呼システムの導入:対面点呼の負荷を軽減し、管理者の業務時間を確保する
  • 健康管理の仕組み化:定期的な健康診断結果の共有、疲労度チェックの導入

失敗しやすい落とし穴と回避策

  • 「給与を上げれば人が来る」と思い込む:条件面だけでなく、職場環境や将来性を伝えないと定着しない
  • 「若手向け」に偏りすぎる:中高年のキャリアチェンジ層も視野に入れる
  • 「採用だけ」に注力する:定着施策を同時に進めないと、入っても辞める悪循環に陥る

まとめ


ドライバー不足と高齢化は、物流業界の構造的な問題だ。しかし、構造的だからこそ、地道な改善の積み重ねが効いてくる。

「まだ大丈夫」と思っているうちに、支えてくれていた人がいなくなる。そのリスクを、経営と現場が共有することが第一歩だ。

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