












─── 物流大綱提言案を読み解く ───
三人の挑戦
― 社長・運行管理者・ドライバーが見た「2030年の物流」 ―
「物流大綱提言案」をベースにした運送会社のための実践ガイド
プロローグ──変わる物流、変われない使命
「徹底的な効率化」「新モーダルシフト」――物流ニッポンの紙面に踊った見出しは、運送業界に大きな波紋を投げかけた。国土交通省がまとめた新たな「物流大綱」提言案。それは2030年を見据えた、日本の物流の設計図だ。
この物語は、ある中小運送会社を舞台に、三人の主人公が物流大綱の「光と影」に向き合う姿を描く。政策文書の行間にある「現場のリアル」を、三つの視点から紐解いていく。
登場人物
| 山田 剛志(58) | 株式会社山田運輸 代表取締役社長。父から継いだ従業員40名の運送会社を率30年。「変わらなきゃ」と思いながらも、投資の負担に悩む日々。 |
| 鈴木 結衣(34) | 運行管理者。前職はIT企業のシステムエンジニア。「デジタルで物流を変える」という志を胸に転職。理想と現場のギャップに苦闘中。 |
| 佐藤 裕也(47) | ベテランドライバー。運転歴22年、大型免許保持。長距離幹線のエースだが、体力の衰えと「モーダルシフト」の波に不安を感じ始めている。 |
第一章──社長の苦悩「投資か、撤退か」
―― 月曜の朝、山田運輸本社。2階の社長室には、物流ニッポンの切り抜きが無造作に置かれていた。
山田剛志は記事を三度読み返し、深く息をついた。「徹底的な効率化」「モーダルシフト」「DX・GXの推進」――どれも、読み解けば「金がかかる」ということだ。
父の代から30年。トラック40台、従業員40名。決して大きくはないが、地元の荷主からの信頼は厚い。しかし、その信頼だけではもう生き残れない時代が来ている――それは、頭ではわかっていた。
山田 「EVトラック、デジタコ、自動点呼システム、配車AI……全部入れたら1億じゃきかない。うちの規模で、その体力があるか……」
机の上には、先月届いたデジタコメーカーの見積書。その隊に、EVトラックのカタログ。どちらも、開くたびに胃が重くなる。
そのとき、ノックの音。運行管理者の鈴木結衣が、タブレットを抱えて入ってきた。
鈴木 「社長、ちょっといいですか。物流大綱の記事、私も読みました。これ、チャンスだと思うんです」
山田 「チャンスねぇ……。俺には「金がかかる」としか読めないんだが」
鈴木 「だからこそ、段階的にいきましょう。一気に全部入れる必要はないんです。補助金も拡充されるはずですし、他社との共同導入という手もある」
鈴木がタブレットに映したのは、3年間の「DX導入ロードマップ」だった。
| ◆ 設備投資負担への解決策 1. リース・サブスク型活用 ― EV車両やDXシステムは購入ではなくリースで初期投資を抑える。技術進歩が速い領域では陫化リスクも回避。 2. 「投資対効果」シミュレーションの徹底 ― 燃料削減額・事故減少による保険料削減・残業代削減など、定量的な回収計算を先に行い、優先順位をつける。 3. 同業他社との共同導入・コスト分担 ― 協同組合や地域物流協議会を活用し、ライセンス費用を按分。単独では手が届かないシステムも導入可能に。 |
| ◆ DX投資支援を最大限活用する解決策 1. 補助金申請の専門チーム確保 ― 経産省・国交省・中小企業庁の補助金を網羅的にウォッチ。「IT導入補助金」「事業再構築補助金」等を組み合わせ、自己負担を大幅圧縮。 2. 段階的DX導入ロードマップ ― 第1段階:デジタコ+自動点呼→第2段階:配車最適化AI→第3段階:荷主連携プラットフォーム。各段階で補助金を活用。 3. スタートアップの実証実験に参加 ― 自社開発ではなく、物流テック系企業の実証実験に参加し、データ提供の対価として低コストで最新技術を試す。 |
山田はロードマップを見つめ、つぶやいた。
山田 「……なるほどな。まずはデジタコと自動点呼か。そこから始めれば、補助金も使えて初期費用は半分以下になるかもしれんな」
鈴木 「はい。それに、デジタコのデータが蓄積すれば、次のステップの判断材料にもなります。「勘」ではなく「数字」で経営判断できるようになるんです」
山田の表情が、わずかに緩んだ。「全部一気に」ではなく「まずここから」。その一言が、経営者の肩の荷を下ろす。
第二章──運行管理者の戦い「理想と現場の狭間」
―― 同じ週の水曜日、運行管理室。鈴木結衣は終わらない電話を切り、モニターを見つめた。
前職のIT企業なら、システム一つで全員の勤怠がリアルタイムで見えた。だが、ここは運送会社だ。ベテランドライバーの佐藤さんは日報を手書きで出すし、点呼は対面でないと納得しない。
物流大綱は「KPIで管理しろ」と言う。労働時間、積載率、BCP策定率――どれも正しい。だが、それを「現場に落とし込む」のがどれほど大変か、政策立案者は知らないだろう。
鈴木 「(独り言)荷待ち時間のデータ化……やりたいけど、今のデジタコだと自動集計ができない。新しい機種が入れば……」
そのとき、休憩室から戴ってきた佐藤が、鈴木のデスクの前で立ち止まった。
佐藤 「鈴木さん、あの「自動点呼」ってやつ、本当に導入するの?」
鈴木 「社長の承認が出れば。佐藤さん、正直どう思います?」
佐藤 「……機械相手に「体調良好です」って言うのは嫉だよ。でもな、正直、俺らの世代は終わりなき電話と書類に追われてる。それが機械で済むなら、運転に集中できるかもしれねえ」
意外な言葉だった。ベテランこそ「無駄な仕事」を一番知っている。その声が、鈴木に勇気を与えた。
| ◆ KPI管理負荷への解決策 1. クラウド型労務管理システムの導入 ― 勤怠管理・運行記録・健康管理を一元化。デジタコとの連携で二重入力を解消し、手作業を極力排除。 2. BCP策定を「テンプレート+カスタマイズ」で効率化 ― トラック協会や行政のテンプレートをベースに、自社の車両数・拠点・取引先に合わせてカスタマイズ。ゼロから作る必要はない。 3. 「運行管理補助者」への分散と外部委託 ― 運行管理者一人に負荷を集中させず、補助者を育成して分担。給与計算・届出等の定型業務はBPOやクラウドサービスに任せる。 |
| ◆ 荷主の意識変革を促す解決策 1. 荷待ち時間の記録・データ化と荷主への定期レポート ― デジタコデータを活用し、「御社の荷待ち時間は業界平均の○倍」と示すことで改善を促進。 2. 「共同配送・中継輸送」の提案型営業 ― 荷主に対し、他社との共同配送や中継輸送の仕組みを自ら提案。積載効率向上とコスト削減の両方を示す。 3. 荷主向け「物流コンプライアンス勉強会」の開催 ― 2024年問題や物流大綱の内容を荷主の担当者に説明する勉強会を自社主催で行い、「教えてくれる運送会社」として信頼を獲得。 |
第三章──ドライバーの覚悟「俺の走る道は消えるのか」
―― 金曜の深夜、東名高速のサービスエリア。佐藤裕也は10トントラックの運転席で、缶コーヒーを啃っていた。
「モーダルシフト」。記事のその言葉が、頭から離れない。鉄道や船に荷物が流れれば、長距離トラックの仕事は減る。22年間、このハンドルを握って走ってきた。それが、「要らない」と言われる日が来るのか。
最近、腰の痛みが引かなくなった。夜通しの運行が増えると、翌日の回復が遅くなる。かつては何ともなかったのに。47歳。体は正直だ。
佐藤 「(缶コーヒーを見つめながら)……あと何年、この仕事ができるかな」
携帯が鸣った。鈴木からだ。
鈴木 「佐藤さん、今度の土曜日、少し時間いただけますか。社長と三人で、これからのことを話したいんです。佐藤さんの意見が、一番大事なんです」
「一番大事」――その言葉が、佐藤の胸に刺さった。
| ◆ モーダルシフトによるトラック需要減少への解決策 1. 「ラストワンマイル」特化への転換 ― 長距離は鉄道・船舶に任せ、駅・港からの端末輸送に集中。モーダルシフトが進むほど、結節点からの短距離配送ニーズは逆に増える。 2. 中継輸送のハブ運営事業への進出 ― 自社の車庫や倉庫を「中継拠点」として提供。長距離ドライバーの交代ポイントとして運営し、輸送だけでなくインフラ提供で収益を得る。 3. 付加価値サービスの開発 ― 単なる「運ぶ」だけでなく、据付・設置、在庫管理、検品、流通加工など3PL型サービスに進化。運ぶ量が減っても単価と利益率を高める。 |
| ◆ 運賌値上げを武器にする解決策 1. 「物流大綱準拠」運賌改定提案書の作成 ― 国のKPI(ドライバー年間所得向上)を根拠に、荷主向けの運賌改定提案書をテンプレート化。「政策対応コスト」として値上げを正当化。 2. 原価の「見える化」ツール導入 ― 燃料費・人件費・車両維持費を荷主にリアルタイムで共有できるダッシュボードを構築。感情論ではなくデータで交渉。 3. 業界横断の運賌ガイドライン策定への参加 ― トラック協会や同業者と連携し、地域・業種別の標準運賌ガイドラインを策定。業界全体で底上げする動きに加わる。 |
土曜日。山田運輸の会議室に、三人が揃った。
山田 「佐藤、率直に聞く。モーダルシフトで長距離の仕事が減るかもしれない。お前、どうしたい?」
佐藤 「……正直、不安だよ。でもな、昨日考えたんだ。俺が22年かけて身につけた「運ぶ力」ってのは、別に長距離だけじゃない。荷物の特性も知ってるし、据付けもできるし、荷主との信頼関係もある。「運ぶだけ」じゃない仕事なら、まだやれると思う」
鈴木 「佐藤さん、それです。まさにそれが、3PL型への進化なんです。ドライバーの経験とノウハウが、そのまま付加価値になる」
山田 「……なるほどな。「運ぶ」だけの会社から、「解決する」会社になるってことか。それなら、佐藤の経験は宝だな」
佐藤の目が、わずかに潤んだ。「要らない」と思っていた自分の経験が、実は会社の未来の核になる。その事実が、何よりの勇気だった。
エピローグ──三人の「次の一歩」
三人の会議が終わったのは、日が暮れ始めた頃だった。
山田は、その晚、初めて自分からデジタコメーカーに電話をかけた。「補助金を使った導入プランを相談したい」――その声には、もう迷いはなかった。
鈴木は、荷主向けの「物流コンプライアンス勉強会」の企画書を書き始めた。「教えてくれる運送会社」というポジションが、荷主との関係を変える第一歩になると信じて。
佐藤は、翌週の配送先で初めて「荷物の据付けまでやりましょうか?」と提案した。荷主の担当者は驚き、そして喜んだ。「運ぶだけ」から「解決する」への転換は、その小さな一言から始まった。
「三人の挑戦」は、物語であり、同時に実践ガイドです。
デジタコ・自動点呼・運行管理システムの導入ご相談は中央矢崎サービス株式会社へお気軽にお問い合わせください。
「物流大綱」提言案の概要と対策
— 2030年を見据えた運送会社の戦略ガイド —
第1部 物流大綱提言案のポイント
国土交通省がまとめたこの提言案は、2026年以降の物流政策の基本方針で、2030年を目標年次としています。大きく5つの柱があり、それぞれに具体的なKPIが設定されています。
| # | 柱 | 主なKPI・ポイント |
| 1 | 徹底的な効率化 | 自動運転トラックの導入、モーダルシフト(トラックから鉄道・船舶への転換)、宅配便の再配達率削減を推進。ドライバー不足への根本的な対応を目指します。 |
| 2 | 荷主・物流構造の転換 | トラックの積載効率向上とドライバーの労働時間短縮を指標化。荷主側にも意識改革を求め、物流全体の最適化を図ります。 |
| 3 | 人材の地位向上 | ドライバーの年間所得引き上げ、大手企業の経営層に物流関係者を增やすことが目標。物流人材の社会的地位向上を明確に打ち出しています。 |
| 4 | インフラ整備とDX・GX | 高速道路での自動運転対応区間整備、EV充電施設の拡充。デジタル化と脱炭素化の両輪で物流の近代化を進めます。 |
| 5 | 災害に強い供給網 | 物流事業者のBCP(事業継続計画)策定率を指標とし、有事への備えを強化します。 |
第2部 運送会社への影響
メリット
① ドライバーの処遇改善が「国策」になる
所得向上がKPIに明記されたことで、運賃値上げの交渉材料になります。「国の方針です」と荷主に説明しやすくなり、適正運賃収受の追い風となります。
② DX投資への支援拡大が期待できる
デジタコ、自動点呼システム、運行管理のデジタル化は、まさにこの大綱が推進するDXそのものです。「SAN点呼」やデジタルタコグラフの需要拡大に直結し、補助金や助成制度の拡充も見込めます。
③ 荷主の意識変革が制度的に後押しされる
積載効率や労働時間がKPI化されることで、荷主側の荷待ち時間削減や積載効率改善への協力が進みやすくなります。
デメリット・課題
④ 設備投資負担の増大
自動運転対応、EV化、DXシステム導入など、中小運送会社にとっては投資負担が重くなります。補助制度が追いつかなければ、大手との格差が広がるリスクがあります。
⑤ モーダルシフトによるトラック需要の減少
鉄道・船舶への転換が進めば、長距離トラック輸送の仕事が減る可能性があります。特に長距離主体の運送会社は、事業モデルの転換を迾られるかもしれません。
⑥ KPI達成への管理負荷
労働時間管理やBCP策定など、コンプライアンス対応の事務負担が増えます。2024年問題に続き、管理体制のさらなる強化が必要です。
第3部 具体的な対策
メリットを最大化するための施策
① 「国策」を運賃交渉に活かす
- 「物流大綱準拠」運賃改定提案書の作成 — 国のKPI(ドライバー年間所得向上)を根拠に、荷主向けの運賃改定提案書をテンプレート化。「政策対応コスト」として値上げを正当化しやすくします。
- 原価の「見える化」ツール導入 — 燃料費・人件費・車両維持費をリアルタイムで荷主に共有できるダッシュボードを構築。データで交渉する体制を作ります。
- 業界横断の運賃ガイドライン策定への参加 — トラック協会や同業者と連携し、地域・業種別の標準運賃ガイドラインを策定。業界全体で底上げする動きに加わります。
② DX投資支援を最大限活用する
- 補助金申請の専門チーム確保 — 経産省・国交省・中小企業庁の補助金を網羅的にウォッチし、迅速に申請できる体制を整えます。「IT導入補助金」「事業再構築補助金」などを組み合わせれば自己負担を大幅に圧縮できます。
- 段階的DX導入ロードマップの策定 — 第1段階:デジタコ+自動点呼 → 第2段階:配車最適化AI → 第3段階:荷主連携プラットフォーム。各段階で補助金を活用します。
- 同業他社との共同導入・コスト分担 — 中小運送会社数社でシステムを共同導入し、ライセンス費用等を按分。単独では手が届かないシステムも導入可能になります。
③ 荷主の意識変革を後押しする
- 荷待ち時間のデータ化と定期レポート — デジタコデータで荷待ち時間を可視化し、月次で荷主にレポート。「御社の荷待ち時間は業界平均の○倍」と示して改善を促します。
- 「共同配送・中継輸送」の提案型営業 — 他社との共同配送や中継輸送の仕組みを自ら提案。積載効率向上とコスト削減の両方を示し、荷主の協力を得ます。
- 荷主向け「物流コンプライアンス勉強会」の開催 — 2024年問題や物流大綱の内容を荷主に説明する勉強会を主催。「教えてくれる運送会社」として信頼関係を深めます。
デメリット・課題への対策
④ 設備投資負担 → 賢く投資する
- リース・サブスク型の活用 — EV車両やDXシステムは購入ではなくリース・サブスクで導入し、初期投資を抑えます。技術進歩が速い分野では購入よりリスクが低い場合が多いです。
- 「投資対効果」シミュレーションの徹底 — 導入前に燃料削減額・事故減少による保険料削減・残業代削減など、定量的な回収計算を必ず行い、経営判断として優先順位をつけます。
- 異業種・スタートアップとの連携 — 物流テック系スタートアップの実証実験に参加し、データ提供の対価として無償・低額で最新技術を試せるケースもあります。
⑤ モーダルシフト → 事業領域を変える
- 「ラストワンマイル」特化への転換 — 長距離は鉄道・船舶に任せ、駅・港からの短距離配送に集中。モーダルシフトが進むほど、結節点からの配送ニーズは逆に増えます。
- 中継輸送のハブ運営事業への進出 — 自社の車庫や倉庫を「中継拠点」として提供。輸送だけでなくインフラ提供で収益を得るモデルです。
- 付加価値サービスの開発 — 「運ぶ」だけでなく、据付・設置、在庫管理、検品、流通加工など、3PL型サービスに進化。運ぶ量が減っても単価と利益率を高められます。
⑥ 管理負荷 → 仕組みで解決する
- クラウド型労務管理システムの導入 — 勤怠管理・運行記録・健康管理を一元化するクラウドシステムを導入し、手作業を極力なくします。デジタコとの連携で二重入力も解消できます。
- BCP策定を「テンプレート+カスタマイズ」で効率化 — トラック協会や行政が提供するテンプレートをベースに、自社の状況に合わせてカスタマイズ。ゼロから作る必要はありません。
- 管理業務の分散と外部委託 — 運行管理者一人に負荷を集中させず、補助者を育成して分担。給与計算・届出など定型業務は外部委託やクラウドサービスに任せ、管理者は現場判断に集中できる体制を作ります。