2019年4月1日より施行された働き方改革関連法により、物流業界において様々な問題が起きると言われた2024年問題。時間外労働時間の上限規制や勤務間インターバル制度の導入などによって、ドライバーの働き方に影響を与えていると言えるでしょう。
では、何が問題点となっていて、それらを解決するためには何が必要なのでしょうか。
働き方改革で何が変わったのか?
働き方改革によって変わった項目は以下の4点が挙げられます。
①ドライバーへの時間外労働の規制
2024年3月まで労働時間の規制が無く進んでいましたが、4月より上限として時間外労働時間の上限は、特別条項付き36協定を締結した場合のみ上限が「年960時間」となります。
もし締結しないままの場合は以下の規制が適用されます。
・時間外労働時間は月100時間未満、2~6ヶ月で平均80時間以内
・月45時間を超えるのは年6ヶ月まで
万が一、時間外労働時間の上限規制に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
②月60時間超えの時間外労働への割増賃金率引上げ
従来の労働基準法では時間外労働を行ったスタッフに対しての割増賃金率は原則25%以上(大企業は50%以上)の義務とされていました。しかし働き方改革関連法の施行に伴い、中小企業を含むすべての企業に「割増賃金率50%以上」が適用されます。
これにより、ドライバーにとっては時間外労働と割増賃金率の引き上げ、時間外労働の規制によって長時間働くことができない環境に変わっていきます。企業にとっても時間外労働が付き60時間を越えたドライバーに人件費を多く支払う必要が生まれます。
③勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間の休息時間を確保することです。現在、厚生労働省では休息時間9時間以上が義務であり、11時間以上の確保が努力義務となります。
環境と働き方の変化に大きな影響をもたらす可能性が指摘されています。
④同一労働・同一収入の適用
働き方改革関連法には同じ企業内で正規雇用と非正規雇用の間にある待遇差をなくすことを目的とした「同一労働・同一収入の適用」が含まれており、2021年4月からより全ての企業が適用される形で運用が始まっています。
物流企業はこの同一労働・同一収入の適用により、以下の条件を守る必要があります。
・正社員と非正規雇用労働者で、基本給や賞与などの待遇に差をつけてはならない
・非正規雇用労働者から求めがあった場合には、待遇の差に関して理由を説明する必要がある
正社員と非正規雇用に本来存在していたはずの格差がなくなったことで、多くの労働者に恩恵が生まれた一方で、実際にそれらが同一労働なのか? という基準を明確にするなど、運用方法には様々な課題が残されています。
今後更に考えられる影響
正式な法律の施行から半年以上が経過し、早くも様々な問題が浮き彫りとなっている2024年問題。それらが影響してなのか、道路貨物運送業者の倒産件数は4年連続増加し、2024年上半期は186件と過去2番目の高水準となりました。
このような問題が続いていくと、今後更に影響があると考えられます。
①売り上げ・利益の減少
絶対的な労働時間の減少によって、売上や利益の減少につながります。その分だけの輸送能力の低下はどうしても避けられないためでもあります。また、時間外割増賃金率の引き上げにより、人件費が増加し、利益率がさらに圧迫される可能性があります。
事実物流業界の大手企業では、2022年度国土交通省の調べでは売上高や営業利益の減少が明らかとなっております。
②人手不足の深刻化
2024年問題を受け注目されたのが、1人で運んでいたものを複数の人がリレー形式で運ぶ中継輸送。しかし、ここにも重要な問題点が生まれてきています。
それは人手不足の深刻化。稼働時間が制限される分、収入確保なども極めて難しくなるためです。
トラックドライバーの待遇低下は「既存のドライバーの離職」や「新たな人材の確保の難化」につながることにもなるので、人手不足がますます深刻化する可能性があります。
③コストの上昇
稼働時間の減少と人手不足により輸送能力が低下すると、業界の売上確保のために運送料金が値上げされると考えられます。
そうなると荷主の商品配送コストが増加し、利益率が圧迫されます。
④日常生活での利便性の低下
当然、日常生活においても利便性の低下は避けられません。
配送時間の長期化、遅延の発生などは十分に起こりうる事象であり、これまで日常的に使われてきたサービスを享受できなくなる可能性は十分に考えられるのです。
手数料の増加なども十分に考えられます。
解決策
こうした状況を解決するためにも、以下のような解決策が求められるでしょう。
①DXやデータ活用
労働時間の長期化として原因として挙げられるのが荷待ち・荷役時間が挙げられます。こうした問題を解決するためにも
・物流センターの自動化
・配送ルートの見直し
このようなことを行うことにより、業務効率を大幅に向上させる必要が出てくるでしょう。
②人材確保・育成
物流業界はイメージとして、物流業界やドライバーという仕事に対するマイナスイメージが付きまとう物が大きいことは事実です。
全日本トラック協会の資料によりますと、こうした問題を解決するために取り組みとして以下の5つを提唱しています。
・ドライバーの待遇改善
・給与体系の見直し
・週休2日制の導入、有給休暇の取得促進
・キャリアパスの明示
・女性、高齢者に働きやすい職場づくり
こうした対応を行うことでホワイトな職場環境であるというイメージアップを図る必要があることは必須でしょう。また、法令遵守を徹底するなどの企業側の対策も不可欠となります。
③荷主や消費者への配慮の要請
また、先に挙げた荷待ち・荷役時間の解消のためには荷主の理解が重要となります。厚生労働省では、労働基準監督署から荷主に次のような配慮を要請しています。
・長時間の恒常的な荷待ち時間を発生させないよう努めること。
・運送業務の発注担当者に改善基準告示を周知すること。
こうした改善は物流業者の業務効率化ともつながる重要なことと言えます。
また、消費者の理解も重要となってくるでしょう。人口減による人手不足は避けられない中で、社会問題にもなっている再配達の問題や配送の手数料などの増加の理解。こういった取り組みを行う必要があるでしょう。
まとめ
今後人口減少なども相まって物流業界においても人材不足は深刻となることは間違いありません。2024年問題について対策を講じなかった場合、2024年に14%、2030年には34%の輸送力が不足するとまで言われているほどです。
これを受け、前内閣の岸田内閣では2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を10月には「物流革新緊急パッケージ」を発表。「積載効率の向上」と「荷待ち・荷役の削減」などに期待を寄せ、政府としても対策を打ちました。
これらの政策が今後どのように出るかは不透明でありますが、日本の血液とも呼んでも良い物流業界を止めないために、1企業として更に労働環境の改善や業務効率化といった部分の向上は必須と言えるでしょう。
また、それらにより業績向上などを見込める1つのチャンスであると考えます。